「ぼくらのバラード」1-14 『ヒカルとまつり』

 まつりがマイクを引き寄せた。


「先輩方、お疲れさまです。そして、メリー・クリスマス。

 私たち、いっしょにやることになりました。『ヒカルとまつり』でーす」

 大熊が「ヒュー」と叫ぶ。馬鹿。

「いいコンビだ」

 先輩が声をかけてくれた。感謝。

 まつりが続ける。

「みなさんに発表があります」

「何だ、何だ、結婚発表か?」

 また大熊だ。おっさんか、お前は。

「じゃなくて」

 まつりは動じない。大胆なこと言っちゃだめだよ。

「オリジナルの曲、作ってます。まだ演奏できないけど、詞は、ここにいるみんなの部長、田辺ヒカルが書きました」

 拍手。「おー」と言う声。成り行きで、立ち上がって頭を下げた。そうせざるを得ない雰囲気。

「とっても愛に溢れた曲なので、みんな楽しみにしていてくださーい」

 後輩の一人が叫ぶ。

「まつり先輩、おめでとうございまーす」

 なんだ、「おめでとう」って。みんなにこにこしている。大熊が、腹を抱えて笑っていた。やっぱり絶対、あとでぶっ飛ばす。

「そんなわけで、あれ? どんな訳なんだろう。今日は『糸』を二人で演奏します。ヒカル君がこの曲にしようって言ってくれたの。先輩、部員のみんな。聞いてください」

 ざわついた。「縦の糸、横の糸」だよ。意味深すぎる。選曲、まずかったか。確かに提案はしたけれど。

 動揺したが、必死で伴奏した。恥ずかしさに耐えて、サビではコーラスを入れた。顔が赤くなっていたにちがいない。

 ステージを降りると、大熊が寄ってきた。

「田辺さん。田辺ヒカルさん。これは交際宣言ということでよろしいんですね」

 マイクに見立てたコンソメ味のウマイモンを、僕はかじってやった。

「照れるなよ」

 答えずにコーラを一気飲みした。突撃取材された芸能人の気持ちがわかる。

 まつりが後輩たちに囲まれていた。楽しそうだ。

 先輩の一人が、話しかけてきた。

「いいなあ、お前。うらやましいよ」

「先輩。なんかよくわからないうちに」

「この野郎」

 軽く頭を叩かれた。思ったより痛かった。