まつりがマイクを引き寄せた。
「先輩方、お疲れさまです。そして、メリー・クリスマス。
私たち、いっしょにやることになりました。『ヒカルとまつり』でーす」
大熊が「ヒュー」と叫ぶ。馬鹿。
「いいコンビだ」
先輩が声をかけてくれた。感謝。
まつりが続ける。
「みなさんに発表があります」
「何だ、何だ、結婚発表か?」
また大熊だ。おっさんか、お前は。
「じゃなくて」
まつりは動じない。大胆なこと言っちゃだめだよ。
「オリジナルの曲、作ってます。まだ演奏できないけど、詞は、ここにいるみんなの部長、田辺ヒカルが書きました」
拍手。「おー」と言う声。成り行きで、立ち上がって頭を下げた。そうせざるを得ない雰囲気。
「とっても愛に溢れた曲なので、みんな楽しみにしていてくださーい」
後輩の一人が叫ぶ。
「まつり先輩、おめでとうございまーす」
なんだ、「おめでとう」って。みんなにこにこしている。大熊が、腹を抱えて笑っていた。やっぱり絶対、あとでぶっ飛ばす。
「そんなわけで、あれ? どんな訳なんだろう。今日は『糸』を二人で演奏します。ヒカル君がこの曲にしようって言ってくれたの。先輩、部員のみんな。聞いてください」
ざわついた。「縦の糸、横の糸」だよ。意味深すぎる。選曲、まずかったか。確かに提案はしたけれど。
動揺したが、必死で伴奏した。恥ずかしさに耐えて、サビではコーラスを入れた。顔が赤くなっていたにちがいない。
ステージを降りると、大熊が寄ってきた。
「田辺さん。田辺ヒカルさん。これは交際宣言ということでよろしいんですね」
マイクに見立てたコンソメ味のウマイモンを、僕はかじってやった。
「照れるなよ」
答えずにコーラを一気飲みした。突撃取材された芸能人の気持ちがわかる。
まつりが後輩たちに囲まれていた。楽しそうだ。
先輩の一人が、話しかけてきた。
「いいなあ、お前。うらやましいよ」
「先輩。なんかよくわからないうちに」
「この野郎」
軽く頭を叩かれた。思ったより痛かった。