「そう言う割には、五月女、その格好、気合い入ってるよな」
そうなのだ。僕が言い出せなかったこと。
真冬の屋外なのに、まつりは白いショートパンツ。
太ももが露わ。普段は、制服の膝丈スカートで隠れている部分だ。
「やだ、もっちー、大熊がいやらしいこと考えてる」
「あ、あほー。ちゃうわ」
大熊が取り乱す。もっちーは無表情。
「ちゃう、ってんだろ」
関西弁と江戸っ子が混ざる大混乱。大熊、バカだなと思ってたら、
もっちーが僕に振ってきた、いきなりだ。
「まつりの脚、きれいだね、田辺君」
まつりが、僕を見る。
「え、ええ、そうだね」
そう答えるしかないじゃないか。
大熊が「おうおう、恥ずかしげもなく」と言う。
女子ふたりはノーコメント。何か言ってよ。
「香坂城公園駅」に着いた。改札を出る。
大熊ともっちーが前を歩き、僕たちが続く。
まつりに話しかけてみる。
「寒くないの、脚」
「大丈夫だよ。肌色の厚めのタイツ履いてる。
レースクイーンが着けるようなやつ」
「そっか」
「目立ちなさいって、ママが言うの。脚、出せって。
恥ずかしい、嫌だって言ったら、プロ意識がないって。
プロじゃないのにね」
「そうなんだ」
「嫌? 嫌だよね、こんな格好。何も言わないから。絶対怒ってるんだって思った」
「そんなことないよ、そんなことないけど」
「やっぱり、ヒカル、嫌だったんだ」
大熊ともっちーが振り返った。
「なんじゃ、それ。というか、ねえ、望月さん。どう思う?」
「うん、意外」
もっちーが僕らを見る。
「こんなまつり、見たことない」
まつりが固まる。立ち止まって動かない。
僕もどうしたらいいのかわからない。これから演奏というのに。
「もっちー、私、変?」
「変、と言うより」
望月さんが大熊を見る。
「まつり、かわいいよね、大熊君」
大熊がニヤリと笑った。
「五月女の弱み、握ったな」
「田辺君、すごいよ」
もっちーが言ったが、どこがすごいのか、よくわからなかった。
「それより、早く場所を決めてくれよ。重くてしかたがない」
大熊が言った。僕たちも現実に戻る。
「私、考えてる場所があるから」