「ぼくらのバラード」1-17 とまどう

「そう言う割には、五月女、その格好、気合い入ってるよな」

 そうなのだ。僕が言い出せなかったこと。

 真冬の屋外なのに、まつりは白いショートパンツ。

太ももが露わ。普段は、制服の膝丈スカートで隠れている部分だ。

「やだ、もっちー、大熊がいやらしいこと考えてる」

「あ、あほー。ちゃうわ」

 大熊が取り乱す。もっちーは無表情。

「ちゃう、ってんだろ」

 関西弁と江戸っ子が混ざる大混乱。大熊、バカだなと思ってたら、

もっちーが僕に振ってきた、いきなりだ。

「まつりの脚、きれいだね、田辺君」

 まつりが、僕を見る。

「え、ええ、そうだね」

 そう答えるしかないじゃないか。

大熊が「おうおう、恥ずかしげもなく」と言う。

女子ふたりはノーコメント。何か言ってよ。

 「香坂城公園駅」に着いた。改札を出る。

大熊ともっちーが前を歩き、僕たちが続く。

 まつりに話しかけてみる。

「寒くないの、脚」

「大丈夫だよ。肌色の厚めのタイツ履いてる。

レースクイーンが着けるようなやつ」

「そっか」

「目立ちなさいって、ママが言うの。脚、出せって。

恥ずかしい、嫌だって言ったら、プロ意識がないって。

プロじゃないのにね」

「そうなんだ」

「嫌? 嫌だよね、こんな格好。何も言わないから。絶対怒ってるんだって思った」

「そんなことないよ、そんなことないけど」

「やっぱり、ヒカル、嫌だったんだ」

 大熊ともっちーが振り返った。

「なんじゃ、それ。というか、ねえ、望月さん。どう思う?」

「うん、意外」

 もっちーが僕らを見る。

「こんなまつり、見たことない」

 まつりが固まる。立ち止まって動かない。

僕もどうしたらいいのかわからない。これから演奏というのに。

もっちー、私、変?」

「変、と言うより」

 望月さんが大熊を見る。

「まつり、かわいいよね、大熊君」

 大熊がニヤリと笑った。

「五月女の弱み、握ったな」

「田辺君、すごいよ」

 もっちーが言ったが、どこがすごいのか、よくわからなかった。

「それより、早く場所を決めてくれよ。重くてしかたがない」

 大熊が言った。僕たちも現実に戻る。

「私、考えてる場所があるから」