「ぼくらのバラード」1-16 助っ人登場

 僕らの曲作りが加速した。


 十二月二十九日。晴れてはいるが、かなり寒い。とはいえ、手袋をして弦を押さえるわけにいかない。

 約束の十時に、五月女邸。運ぶ機材は昨日、メモしておいたが、まつりがいくつか書き足した。ポータブル電源が二台になっていて、これが重い。

「ヒーター、使いたいじゃない。今日、寒いし」

「運べるかなあ」

「助っ人がいるから大丈夫。力はある」

「そうなの、誰」

「すぐにわかるって。とりあえず門まで運ぼう」

 望月真理恵がいた。

「え、もっちー。無理だよ、こんな重いの」

 まつりが「違う、違う」と言う。

「私も、少しなら持てるよ」

 もっちーが言うが、まつりが否定する。

もっちーはそんなことしなくていいの。それより彼氏のごきげんを取って」

 なんと、門の前に大熊がいた。彼氏って。

「いつまで待たせるんだよ、五月女」

 もっちーが駆け寄った

「ごめんね、大熊君、まつりと話をしてた。寒かった? だいじょうぶ?」
「あ、僕はいいんですけど、望月さんは寒くないですか」

 なんだ、そのことば使い。まつりが説明する。

もっちーも来るから手伝って。そう言ったら、二つ返事だった」

 大熊が目の前に立つ。

「まったく。なんで俺と望月さんが、お前らのデートに付き合うんだよ」

「デートって」

「違うのかよ」

「大熊君、ダブルデート。ダブルデートなんだから、協力しよ」

 もっちーが言うと、大熊が顔を赤くして黙った。意外。大熊がチア部のメンバーと。これは奇跡だ。

 張り切った大熊が、機材を持とうとした。

すぐに文句を言う。

「なあ、五月女。いくら俺が力があるといっても」

 そこまで言って、ちらっともっちーを見た。

「腕は、二本しかない、です」

 珍しく正論だ。機材の数が多い。

「ごめん。用意してあるから」

 まつりが戻って行った。しばらく待つ。

 彼女が持って来たのは、背負子と台車だった。背負子には登山用品メーカーのロゴ。

「よく、こんなものあるな」

 大熊が言う。

「パパの趣味が登山なの。マナスルとかチャレンジしたらしい」

「すげーな。それは趣味とは言わない」

 大熊が背負子に発電機を乗せた。その他は台車に積む。僕もスピーカーを持つ。背中にギター。まつりもキーボードを背負い、バッグを二つ持った。もっちーも重そうなトートバッグ。

「しかし、これで電車に乗れるか」

 大熊が言う。まつりが「大丈夫だよ」、もっちーが「そうだよ」と付け加えると。大熊は黙る。僕は不安だったが、普通に改札を通過できた。

 背中に冬山登山に行きそうな荷物と、配送業者のような台車を押した高校生が電車に乗る。

「そもそも、こんな年末にお前たちの歌、聞いてくれる人、いるのか」

「わからない。でもいいの。今日は始めてだから、大それたこと考えてないよ。度胸試しだね」

「そう言う割には、五月女、その格好、気合い入ってるよな」

 ニヤニヤして、大熊がまつりを冷やかす。