「ぼくらのバラード」1-15 加速する

 いろいろな事が動き出した。

 まずはオリジナル曲を完成しなければ。翌日から、僕らは作曲を始めた。

 まつりがメロディを弾く。合わせて歌ってみる。悪くない。

 だけど、いったん盛り上がってしまって、よけいに恥ずかしくなった。彼女への思いを歌った曲だ。大熊でなくても「ヒューヒュー」言うかもしれない。

 白状した。

「恥ずかしい」

「気にしなくていいやん」

 まつりが言う。

「度胸あるなあ。恥ずかしくないの」

「照れくさい気持ちはあるよ。でも、うれしい。ヒカルさん」

「ヒカル、でいい。僕は、急な変化について行けてない」

「あはは、大丈夫、大丈夫」

 冬休みに入ったので、午前中から曲作りをしている。

気持ちのいいバラードになってきた、手前味噌だけど。

 まつりママがココアを運んで来て、しばらく練習を見ていた。

「そこは、下がらない方がいい。ヒカル君の音域次第だけど」

「出ると思います」

 試して見ると、ドラマティックになった。まつりが楽譜を直す。僕は読めないから、懸命に暗記した。

「それで、あなた達、そのストレートなんちゃらはいつやるつもり」

「ストリートね、ママ。でも、それなの。もう年末だし。やっぱり年明けの」

「何を言ってるの。そんな気持ちだと、どんどん遅くなる。年末だろうが、大晦日だろうが、お正月だろうが、行動しなければだめ。行動なくして成長なし。すぐに動く」

 過激だ、まつりママ。歌劇界で有名な五月女和華。天女のソプラノと呼ばれ、大きな舞台に立ち続けている。

「そうは言っても。ねえ、ヒカル」

 まつりが僕を見る。僕が「うん」と言うと、ママが咳払いをした。

「何なの、あなた達、その老夫婦みたいなやり取りは。パパとママでも、そんな煮え切らない会話はしないわよ。まつり。明日、実行しなさい。未完成でもいい。とにかく始めるの。始めたら、前に進んでいくものよ」

「さすがに、明日は無理。えーと、三日後。三日後に実行する。いい? ヒカル」

「えーっ、三日後? えっと」

 僕が困ると、ママがねじ込んできた。

「ヒカル君、まつりをお願い。二人で力を合わせて」

 新婦の父親みたいなことを言う。まつりを見ると、仕方がない、の表情。

「それじゃ、三日後の十二月二十九日に」

「晴れたらいいわね」

 まつりママが出て行く。

 

 僕らの曲作りが加速した。