いろいろな事が動き出した。
まずはオリジナル曲を完成しなければ。翌日から、僕らは作曲を始めた。
まつりがメロディを弾く。合わせて歌ってみる。悪くない。
だけど、いったん盛り上がってしまって、よけいに恥ずかしくなった。彼女への思いを歌った曲だ。大熊でなくても「ヒューヒュー」言うかもしれない。
白状した。
「恥ずかしい」
「気にしなくていいやん」
まつりが言う。
「度胸あるなあ。恥ずかしくないの」
「照れくさい気持ちはあるよ。でも、うれしい。ヒカルさん」
「ヒカル、でいい。僕は、急な変化について行けてない」
「あはは、大丈夫、大丈夫」
冬休みに入ったので、午前中から曲作りをしている。
気持ちのいいバラードになってきた、手前味噌だけど。
まつりママがココアを運んで来て、しばらく練習を見ていた。
「そこは、下がらない方がいい。ヒカル君の音域次第だけど」
「出ると思います」
試して見ると、ドラマティックになった。まつりが楽譜を直す。僕は読めないから、懸命に暗記した。
「それで、あなた達、そのストレートなんちゃらはいつやるつもり」
「ストリートね、ママ。でも、それなの。もう年末だし。やっぱり年明けの」
「何を言ってるの。そんな気持ちだと、どんどん遅くなる。年末だろうが、大晦日だろうが、お正月だろうが、行動しなければだめ。行動なくして成長なし。すぐに動く」
過激だ、まつりママ。歌劇界で有名な五月女和華。天女のソプラノと呼ばれ、大きな舞台に立ち続けている。
「そうは言っても。ねえ、ヒカル」
まつりが僕を見る。僕が「うん」と言うと、ママが咳払いをした。
「何なの、あなた達、その老夫婦みたいなやり取りは。パパとママでも、そんな煮え切らない会話はしないわよ。まつり。明日、実行しなさい。未完成でもいい。とにかく始めるの。始めたら、前に進んでいくものよ」
「さすがに、明日は無理。えーと、三日後。三日後に実行する。いい? ヒカル」
「えーっ、三日後? えっと」
僕が困ると、ママがねじ込んできた。
「ヒカル君、まつりをお願い。二人で力を合わせて」
新婦の父親みたいなことを言う。まつりを見ると、仕方がない、の表情。
「それじゃ、三日後の十二月二十九日に」
「晴れたらいいわね」
まつりママが出て行く。
僕らの曲作りが加速した。