「ぼくらのバラード」 1-3 出会い

 そんなわけで、高二の冬、僕は『PMC』の部長になった。

 

 まつりとは久留島学園中学部、一年二組で出会った。

  入学して数日後、僕は男子三人で話をしていた。好きな芸能人は誰、みたいな内容だ。

「俺、ももクロのファンだよ」

 一人が言った。

「俺はAKBだなぁ。大島優子ちゃん、最高」

 もう一人が主張する。ももクロだ、優子ちゃんだ、はしゃぐ二人。

「田辺は、誰のファン?」

 こちらに振られた。

「僕、アイドルとか、よく知らないんだよね」

「へえ、そうなんだ」

「でも、音楽は好きだよ。古いフォークソングとか」

「何、それ。よくわからない」

「お父さんが、聴いててさ。僕も小さいときから聴かされて。知らない? 吉田拓郎とか、井上陽水とか」

 その時、まつりは少し離れたところにいた。拓郎や陽水の名前が耳に入った瞬間、彼女が飛んで来た。

 まつりが僕の前に立つ。腰に手を当てて、高らかに宣言した。 

「聞いて。私にとっては、中島みゆきさんが神」

 教室中の生徒が、彼女を見た。

 その後、音楽の話で盛り上がった。彼女は僕が好きなミュージシャンをよく知っていた。加藤和彦の名前が出たときは驚いた。僕がギターを弾くと知って、まつりは喜んだ。

 『軽音楽部』に二人で入部した。迷っていた僕の背中を、まつりが押した。久留島学園の文化系クラブは、中学高校合同である。上手な先輩から教えてもらえるよ。まつりの説得力に負けた。

 僕たちは急速に親しくなったが、同級生から冷やかされることはなかった。

 吉田拓郎ファンと中島みゆきを崇拝する中学生。周囲が「AKB48」や「EXILE」、「嵐」に夢中だった時代である。変わり者、と思われたのかもしれない。

 ただ、まつりは人気者だった。

 だから、僕が彼女とつり合っていなかったのかも知れない。

 女優の誰かに似てる。アイドルの誰々みたいだ。他校の生徒が彼女を見に来たり、同級生が手紙を渡したり。先輩が「好きだ」と告白した。そんな話がよくあった。

 それでもまつりは自然なまつりだった。大きな声で話し、笑う。誰にも親切で、全校生徒を友だちと思っている。社交的。オープンマインド。僕には、まったく欠けているところだ。

 彼女の欠点と言えば、気が強いこと。そして、僕を弟か家来みたいに扱うこと。

「けど、そのポジション、気に入ってるよな」

 大熊に言われたことがある。図星。そう、それが嫌いではない。

 こんな僕らは、五年近くを過ごし

 そして今、高校二年生の冬を迎えていた。