そんなわけで、高二の冬、僕は『PMC』の部長になった。
まつりとは久留島学園中学部、一年二組で出会った。
入学して数日後、僕は男子三人で話をしていた。好きな芸能人は誰、みたいな内容だ。
「俺、ももクロのファンだよ」
一人が言った。
「俺はAKBだなぁ。大島優子ちゃん、最高」
もう一人が主張する。ももクロだ、優子ちゃんだ、はしゃぐ二人。
「田辺は、誰のファン?」
こちらに振られた。
「僕、アイドルとか、よく知らないんだよね」
「へえ、そうなんだ」
「でも、音楽は好きだよ。古いフォークソングとか」
「何、それ。よくわからない」
「お父さんが、聴いててさ。僕も小さいときから聴かされて。知らない? 吉田拓郎とか、井上陽水とか」
その時、まつりは少し離れたところにいた。拓郎や陽水の名前が耳に入った瞬間、彼女が飛んで来た。
まつりが僕の前に立つ。腰に手を当てて、高らかに宣言した。
「聞いて。私にとっては、中島みゆきさんが神」
教室中の生徒が、彼女を見た。
その後、音楽の話で盛り上がった。彼女は僕が好きなミュージシャンをよく知っていた。加藤和彦の名前が出たときは驚いた。僕がギターを弾くと知って、まつりは喜んだ。
『軽音楽部』に二人で入部した。迷っていた僕の背中を、まつりが押した。久留島学園の文化系クラブは、中学高校合同である。上手な先輩から教えてもらえるよ。まつりの説得力に負けた。
僕たちは急速に親しくなったが、同級生から冷やかされることはなかった。
吉田拓郎ファンと中島みゆきを崇拝する中学生。周囲が「AKB48」や「EXILE」、「嵐」に夢中だった時代である。変わり者、と思われたのかもしれない。
ただ、まつりは人気者だった。
だから、僕が彼女とつり合っていなかったのかも知れない。
女優の誰かに似てる。アイドルの誰々みたいだ。他校の生徒が彼女を見に来たり、同級生が手紙を渡したり。先輩が「好きだ」と告白した。そんな話がよくあった。
それでもまつりは自然なまつりだった。大きな声で話し、笑う。誰にも親切で、全校生徒を友だちと思っている。社交的。オープンマインド。僕には、まったく欠けているところだ。
彼女の欠点と言えば、気が強いこと。そして、僕を弟か家来みたいに扱うこと。
「けど、そのポジション、気に入ってるよな」
大熊に言われたことがある。図星。そう、それが嫌いではない。
こんな僕らは、五年近くを過ごし
そして今、高校二年生の冬を迎えていた。