「ぼくらのバラード」 1-2 帰りのバスで

 帰りのバス、彼女と並んで座る。大熊の提案を話してみた。

「ダサいとは思わない。『ケイオン』ってアニメもあるくらいだし。ダサいと思うのが、ダサい」

 まつりは呆れた様子だ。
「『ロック部』なんて、語呂が悪いよ。とにかく、大熊にはセンスがない。ドラマーのくせにリズム感がない。品もない。ない、ない、ないの三乗」

 完全にバカにしている。少しだけ、大熊が気の毒になる。

「ロックとか、狭いジャンルで括られたくないし」

 まつりが崇拝するのは中島みゆきだ。リリカルな歌姫。

「ただね。『軽』って字が引っかかるのは確か。なんで『軽音楽』なんだろう」

 僕も頷く。まつりが言うと「そうだな」って思ってしまう。

「例えば『ポピュラー・ミュージック・クラブ』って感じかな」

 まったくの思いつきだったが、言った途端に、手を握られた。

「ヒカル、それ、ええやん。略して『PMC』。かっこええやん。みゆきさんはポプコンポピュラーソングコンテスト)のグランプリ、取ってはるし」

 なぜか急に関西弁。それに「PMC」じゃリズムが悪いかもと思ったが、黙っておいた。なにより、大熊みたいには馬鹿にされなくてよかった。

 翌日、まつりに急かされて、顧問の先生に相談した。

「まぁ、生徒会がオッケーなら、名前の変更ぐらいかまわないけどな。先輩には、伝えておけよ」

 おおらかな木村先生。

 先生は長髪で、いつも派手なジャケットを着ている。「チャラ先(チャラい先生の意味だ)」と呼ばれているが、高校三年の学年主任、偉い先生だ。校長先生もチャラ先には一目置いているらしい、噂だけど。

「職員会議で報告しておくよ」

  チャラ先が言ってくれたので、安心だ。

 僕が職員室にいる間、部室では、まつりが部員たちに話をしていた。クラブでの彼女の存在感は抜群だ。特に後輩部員には圧倒的な人気がある。クラブ名変更の提案に反対はなかった。ただ、大熊が「え?」という顔をしていたらしいけど。 

 そんなわけで、高二の冬、僕は『PMC』の部長になった。