部長になった。なりたくてなったわけじゃない。
秋の文化祭で、高校三年生が引退した。次の部長を選ぶ選挙で、二年生の中から僕が勝利してしまったのだ。
どう考えても組織票だ。あとは、まつりに一票。これは僕が入れた票だ。
「一票なんて、自分で書いたと思われる」
まつりが文句を言っていたが、そんなこと誰も思わない。『軽音楽部』なんて個人主義者の集団だ。まとめ役をやりたがる部員なんて、いない。
「部長殿」
大熊がすり寄ってきた。同じ二年生で、『宙(そら)』というバンドのドラムだ。
「いやあ、ヒカル君が部長になって、本当にめでたい。久留島学園、軽音楽部の未来は明るい」
大熊が肩に手を置く。お前、制服をクリーニングに出せよ。匂うぞ。
「そこで、提案なんだけどな。『軽音楽部』って名前、ダサくないか?」
「別に」
全国的に使われている名称だ。問題ないと思う。
「そうかな。ここは田辺ヒカル、新部長を祝して、名前変えようや。『ロック部』でどうだ」
「無理だよ。ジャズが好きな後輩もいるし、ダンス系もいる。第一」
ここで切り札を出す。
「五月女がなんて言うかな」
大熊は、まつりが苦手だ。窓際にいるまつりを見た。イヤホンで何かを聞いている。あんたのドラム、うるさくて迷惑なのよ。どこかレンタルスタジオでやって。いつも文句を言われている。
彼女が視線に気付いた。一秒でそばに来た。
「何、見てるのよ、こそこそ二人で話して」
「いや、大熊君がさぁ」
「何でもない、何でもないって。部長になってご苦労さん、て」
「白々しい」
まつりが大熊をにらむ。大きな目。後輩部員の憧れ、まつりネェさんだ。
帰りのバス、彼女と並んで座る。大熊の提案を話してみた。