「ぼくらのバラード」 1-1 まつりと僕

 部長になった。なりたくてなったわけじゃない。

 秋の文化祭で、高校三年生が引退した。次の部長を選ぶ選挙で、二年生の中から僕が勝利してしまったのだ。

 どう考えても組織票だ。あとは、まつりに一票。これは僕が入れた票だ。
「一票なんて、自分で書いたと思われる」
 まつりが文句を言っていたが、そんなこと誰も思わない。『軽音楽部』なんて個人主義者の集団だ。まとめ役をやりたがる部員なんて、いない。

「部長殿」

 大熊がすり寄ってきた。同じ二年生で、『宙(そら)』というバンドのドラムだ。

「いやあ、ヒカル君が部長になって、本当にめでたい。久留島学園、軽音楽部の未来は明るい」

 大熊が肩に手を置く。お前、制服をクリーニングに出せよ。匂うぞ。

「そこで、提案なんだけどな。『軽音楽部』って名前、ダサくないか?」

「別に」
   全国的に使われている名称だ。問題ないと思う。

「そうかな。ここは田辺ヒカル、新部長を祝して、名前変えようや。『ロック部』でどうだ」

「無理だよ。ジャズが好きな後輩もいるし、ダンス系もいる。第一」

 ここで切り札を出す。

「五月女がなんて言うかな」

 大熊は、まつりが苦手だ。窓際にいるまつりを見た。イヤホンで何かを聞いている。あんたのドラム、うるさくて迷惑なのよ。どこかレンタルスタジオでやって。いつも文句を言われている。

 彼女が視線に気付いた。一秒でそばに来た。

「何、見てるのよ、こそこそ二人で話して」

「いや、大熊君がさぁ」

「何でもない、何でもないって。部長になってご苦労さん、て」
「白々しい」

 まつりが大熊をにらむ。大きな目。後輩部員の憧れ、まつりネェさんだ。

 帰りのバス、彼女と並んで座る。大熊の提案を話してみた。