「私、泣きそうになった」
まつりが言った。どうやら怒られることはなさそうだし、気にいってくれている。
ただ、猛烈に恥ずかしい。お母さんにまで見られてしまった。
顔が火照る。暖房が効きすぎているんじゃないか、この部屋は。
「やっぱり、二人は運命共同体ね」
まつりママが言う。
いや、だから、お母さん、それは重い意味があります。だいたい、物わかり良すぎる。世間のお母さんとは。かなり感覚が違う気がする。
口に出せないので、心の中で突っ込んだ。まだ、ボケーッと立ったままだ。
「じゃ、がんばりなさい。しっかりね。それから、二人とも節度を持って。まだ高校生なんだから」
言って、まつりママが出て行った。
二人になって、しばらくお互いを見ていた。まつりママが現れると、こういう雰囲気になる。「あのさ」と僕は言おうとした。いきなりママに見せるなんて。
その前にまつりが言った。
「ありがとう、うれしかった。ヒカルが、田辺君が、ヒカル君が、そんな風に思ってたんだって」
まつりが恥ずかしそうにしている。珍しい。「えへへ」と照れくさそうに笑う。
「いや、あのさ、あのさ」
僕は言った。確かめたかった。
「歌詞は合格? 歌詞として、合格かな」
「合格う」
まつりが答えた。
「合格に決まってるやん。曲を付けて、不自然なところがあったら、修正するかも、だけど」
「それは当然。よかった合格で、ほっとした」
「だけどね」
まつりが小さな声で言った。
「なんだか、人前で発表するの、惜しくなってきた。私とヒカルの秘密にしておきたい」
「だけどもう、ママに発表しちゃったよ」
「そうか、そうだね、あはは」
「次は、作曲か」
「私、がんばるから」
「二人で考えるんだよね。楽譜にするのは、まつりだけど」
「そうだけど、まず私がやってみたい。歌詞はヒカル君の努力の結晶だから」
「わかった。とりあえず、まつり様にお願いします。でも、明日は、終業式と先輩お疲れさま会だから、今夜は無理しちゃダメだよ」
「うん、わかってる。えへへ、なんか、ヒカル君、やさしい」
「それじゃぁ、僕は帰って少し眠るよ。昨夜は徹夜だったし」
僕は鞄を持ち上げて、ドアに近付いた。
まつりが「あ、待って」と言う。