「ぼくらのバラード」1-12 恥ずかしいけれど

「私、泣きそうになった」

 まつりが言った。どうやら怒られることはなさそうだし、気にいってくれている。
 ただ、猛烈に恥ずかしい。お母さんにまで見られてしまった。
 顔が火照る。暖房が効きすぎているんじゃないか、この部屋は。

「やっぱり、二人は運命共同体ね」

 まつりママが言う。

 いや、だから、お母さん、それは重い意味があります。だいたい、物わかり良すぎる。世間のお母さんとは。かなり感覚が違う気がする。

 口に出せないので、心の中で突っ込んだ。まだ、ボケーッと立ったままだ。

「じゃ、がんばりなさい。しっかりね。それから、二人とも節度を持って。まだ高校生なんだから」

 言って、まつりママが出て行った。

 二人になって、しばらくお互いを見ていた。まつりママが現れると、こういう雰囲気になる。「あのさ」と僕は言おうとした。いきなりママに見せるなんて。

 その前にまつりが言った。

「ありがとう、うれしかった。ヒカルが、田辺君が、ヒカル君が、そんな風に思ってたんだって」

 まつりが恥ずかしそうにしている。珍しい。「えへへ」と照れくさそうに笑う。

「いや、あのさ、あのさ」

 僕は言った。確かめたかった。

「歌詞は合格? 歌詞として、合格かな」

「合格う」

 まつりが答えた。

「合格に決まってるやん。曲を付けて、不自然なところがあったら、修正するかも、だけど」

「それは当然。よかった合格で、ほっとした」

「だけどね」

 まつりが小さな声で言った。

「なんだか、人前で発表するの、惜しくなってきた。私とヒカルの秘密にしておきたい」

「だけどもう、ママに発表しちゃったよ」

「そうか、そうだね、あはは」

「次は、作曲か」

「私、がんばるから」

「二人で考えるんだよね。楽譜にするのは、まつりだけど」

「そうだけど、まず私がやってみたい。歌詞はヒカル君の努力の結晶だから」

「わかった。とりあえず、まつり様にお願いします。でも、明日は、終業式と先輩お疲れさま会だから、今夜は無理しちゃダメだよ」

「うん、わかってる。えへへ、なんか、ヒカル君、やさしい」

「それじゃぁ、僕は帰って少し眠るよ。昨夜は徹夜だったし」

 僕は鞄を持ち上げて、ドアに近付いた。

 まつりが「あ、待って」と言う。