「オリジナル、作らなきゃ」
「え」
「オリジナル曲、私たちの」
「誰が作るんだよ」
「歌詞はヒカルで、曲は二人で。作詞、田辺ヒカル。作曲、五月女まつり。
うん、かっこいい」
曲は二人で、って言わなかったか。
「だって、ヒカル、楽譜書かれへんやん。
私、書けるねんもーん」
なんだ、その変な大阪弁。
「詞は恥ずかしい」
「でも書いてるじゃない。ピンクの表紙のノート。『ヒカルちゃんノート』。
私、中身、見たことないけど」
「だから、恥ずかしいんだって。それから『ヒカルちゃんノート』じゃない。『創作ノート』って言うの」
たしかに、僕は歌詞を書きためている。ギターコードを付けたものもあるが、披露したことはない。
自分の未熟さはわかっている。プロの曲をコピーして、歌うたびに思うのだ。
凄い曲だな、と。才能がある人にはかなわない。
まつりの追撃が来る。
「すぐに、とは言ってないよ。そのうちに」
「まあ、そのうち、なら」
「まず、歌詞ね。歌詞先行で行こう。明日、見せて」
「それは、そのうち、とは言わないよね」
「早く、お披露目しようよ。私たちの最初の一歩だよ。記念の一曲だよ。ねえ、私たち
の、記念の、一曲だよ」
確かに、それはそうだけど。
五月女邸から帰るとき、今日は正面大門が開いた。
通行人に注目された。
帰り道、ずっと歌詞を考えていた。頭の中で、ことばが回転していた。
「記念の一曲」というフレーズにやられた。何か残したいと思った。
家に帰ると、妹と顔を合わせた。
「五月女先輩のところ? 熱いね、熱いね。十二月なのにね」
無視して自分の部屋に入る。妹が「あれ」という顔をした。
『創作ノート』を開いてみる。
まつりが言う『ヒカルちゃんノート』だ。表紙はピンク。よく見てるな、あいつ。
ページをめくってみるが、これという歌詞はない。
「だめか」
思わず言っていた。どうするか。