「ぼくらのバラード」 1-8 作詞は僕

「オリジナル、作らなきゃ」

「え」

「オリジナル曲、私たちの」

「誰が作るんだよ」

「歌詞はヒカルで、曲は二人で。作詞、田辺ヒカル。作曲、五月女まつり。

うん、かっこいい」

 曲は二人で、って言わなかったか。

「だって、ヒカル、楽譜書かれへんやん。

私、書けるねんもーん」

 なんだ、その変な大阪弁

「詞は恥ずかしい」

「でも書いてるじゃない。ピンクの表紙のノート。『ヒカルちゃんノート』。

私、中身、見たことないけど」

「だから、恥ずかしいんだって。それから『ヒカルちゃんノート』じゃない。『創作ノート』って言うの」

 たしかに、僕は歌詞を書きためている。ギターコードを付けたものもあるが、披露したことはない。

 自分の未熟さはわかっている。プロの曲をコピーして、歌うたびに思うのだ。
凄い曲だな、と。才能がある人にはかなわない。

 まつりの追撃が来る。

「すぐに、とは言ってないよ。そのうちに」

「まあ、そのうち、なら」

「まず、歌詞ね。歌詞先行で行こう。明日、見せて」

「それは、そのうち、とは言わないよね」

「早く、お披露目しようよ。私たちの最初の一歩だよ。記念の一曲だよ。ねえ、私たち
の、記念の、一曲だよ」

 確かに、それはそうだけど。

 五月女邸から帰るとき、今日は正面大門が開いた。
通行人に注目された。

 帰り道、ずっと歌詞を考えていた。頭の中で、ことばが回転していた。

「記念の一曲」というフレーズにやられた。何か残したいと思った。

 家に帰ると、妹と顔を合わせた。

「五月女先輩のところ? 熱いね、熱いね。十二月なのにね」

 無視して自分の部屋に入る。妹が「あれ」という顔をした。

『創作ノート』を開いてみる。

 まつりが言う『ヒカルちゃんノート』だ。表紙はピンク。よく見てるな、あいつ。
 ページをめくってみるが、これという歌詞はない。

「だめか」

 思わず言っていた。どうするか。