期末考査は手応えがあった。親の文句を避けたい気持ちがモチベーションになった。
テスト明け、練習を始めた。
ソロでやっていた同士だ。入り方やテンポが違う。微妙な差を調整していった。
僕は拓郎の「舞姫」、「やさしい悪魔」、そして「落陽」。まつりは「糸」、「空と君のあいだに」と「時代」を歌うと決めた。
「有名な曲、ばっかだね」
「まずは、人を集めないと。だからいいの。ヒカルこそ『やさしい悪魔』って。それ、アイドルが歌ったやつだよね」
「キャンディーズね。よく知らないけど」
「おじさん向けだなあ。年金暮らしのおじさんしか来ないと思ってるの」
「心外だなあ。いい曲だって。すべての世代に愛される名曲」
「はいはい、練習、練習」
数日合わせると、息が合ってきた。キーボードとギターのアレンジ。音の厚みには欠けるが、シンプルでいい。まつりママが親指を立てて「いいね」サインをしてくれた。スタジオをモニターしていたのだ。それはそれで、ちょっと怖いけど。
練習は楽しかった。時間が過ぎるのが早い。明後日は終業式。午後から、先輩の前で一曲披露することになっている。
「どれ、やる? まつり」
「二人だから二曲やったらだめかな」
「だめでしょ。そのルールだと、大熊のところ五曲やるよ」
「そうだね。それは耐えがたい。ヒカル、決めて」
「ここは『糸』でしょ」
「えー、ヒカルがメインでいい。部長なんだよ」
「誰も喜ばないよ。まつりが目立たないと」
「ヒカル、いつも私を立ててくれるけど」
「あたりまえじゃないか。みんな、まつりが見たいんだって」
「うれしいけど」
歯切れがよくない。気にはなったが、二人で一曲だと主張した。最後はまつりも納得した。
「もう一回、練習しておこう」
僕が言って、最初のコードを弾いた。まつりが合わせてくる。
「なーぜ、めぐり……」
線は細いが、かわいい印象だ。邪魔をしないようにコードを進めて行く。いい仕上がり。
「ありがとう」
歌い終わって、まつりが言う。
「合わせるの、気持ちいいね。もっと早くやればよかったね。高校生活、あと一年ちょっとだね」
僕も「そうだなぁ」と思った。思ったが、こんな感傷的なこと言うなんて変だぞと身構える。まつりの表情が変わる。
「ヒカル。このあと、私が変なことを言うと思ってるでしょ」
「違うの」
「違うよ」
「そうなんだ。それならよか……」
「オリジナル、作らなきゃ」
「え」
「オリジナル曲、私たちの」